この事例から分かること
購入の先に、もう一度選ばれる接点を。
- LTVを重視していても、購入履歴と顧客情報がつながっていなければ、購入後の支援や再提案を設計しにくい。
- 今回の企業Aでは、会員登録の必須化と商品ページ改善を並行して実施。会員化と購入率の変化が記録された。
- 登録必須化は、すべてのECサイトの正解ではない。購入時の負担、顧客にとっての便利さ、継続購入を一緒に検証する。
- 会員数やCVRの上昇は、LTV向上そのものではない。再購入と利益まで追って判断する。
自社ECのリピート施策が進まない経営者・EC担当者、CRMを導入したものの活用しきれていない方に向けた、支援の現場からのレポートです。
LTVの罠とは?「大切だと分かっている」と「仕組みで実行できる」の間
この記事でいうLTVの罠は、顧客との長期的な関係を目指しながら、日々の購入導線やデータ取得の設定が、その目的に合っていない状態です。新規顧客の獲得に力を入れても、購入後に何を届けるか、誰に届けられるかが決まっていなければ、関係は1回の注文で途切れがちです。
LTVはLife Time Value(ライフタイムバリュー)、日本語では顧客生涯価値と呼ばれます。売上ベースか利益ベースか、何年間を見るかによって計算方法は変わります。自社で指標の定義をそろえ、購入単価・頻度・継続期間・コストを確認することが必要です。
自社ECの強みは、顧客の購買状況を理解し、商品を使うときのサポートや次の提案につなげられる点にあります。その土台を整えることは、サブスクに限らず、繰り返し購入される商材を扱うビジネスにも重要です。
商品情報・在庫・配送予定で、購入前の不安を減らす。
注文履歴と顧客情報をつなぎ、連絡できる条件を確認する。
使い方や再購入の案内を届け、継続購入を確認する。
一般的な確認の流れ。登録するだけで、継続購入が生まれるわけではありません。
会員登録と、顧客情報の取得は同じではない
ここは誤解を避けたいポイントです。非会員購入でも、注文に伴って氏名やメールアドレスなどの情報が保存されるECサービスはあります。例えばShopifyは、注文などをきっかけにお客様プロフィールが作成されると案内しています。「非会員だから一切データがない」とは言い切れません。[1:Shopify公式ヘルプ]
確認したいのは、情報が存在するかだけでなく、同じ顧客の注文履歴を把握できるか、CRMに連携できるか、連絡の目的と配信の同意を管理できるかです。会員アカウントの作成とマーケティングメールの受信同意も分けて扱います。管理画面のチェック一つを見る際にも、その先の運用までたどる必要があります。
支援事例:会員登録の必須化と商品ページ改善を、同時に進めた
PRETAKEの支援先である自社EC運営企業Aでは、非会員での購入が多く、顧客データをCRMに生かす運用が十分にできていませんでした。一方で、集客の減少に対応し、来訪したユーザーが購入しやすい状態をつくる課題もありました。
2026年4月度の月次報告には、非会員購入の廃止と、新規会員登録数をKPIにする決定が残っています。そこで実施したのが、非会員購入を廃止して会員登録を必須にする設定変更です。ただし、施策はそれだけではありません。商品ページの情報拡充、在庫と最短出荷の明示、おすすめ商品へ進むレコメンド導線の改善も継続しました。
非会員購入を廃止し、会員登録を必須化。CRMで活用する土台を整える。
情報を拡充し、在庫・最短出荷を明示。おすすめ商品への導線も改善。
出典:PRETAKEの支援記録。二つの施策の効果を個別に切り分けた実験ではありません。
登録してもらう理由と、買いたいと思える情報を整える
購入前の人にとって、まず知りたいのは商品が自分の用途に合うか、いつ届くか、在庫があるかです。情報が不足したまま登録だけを求めると、手間が増えた印象になりかねません。企業Aの取り組みは、会員化の仕組みと購入判断に必要な情報を、両方整えるアプローチでした。
この事例からPRETAKEが重視するのは、「LTVを高めたい」という経営の方針を、実際の設定と接客の内容まで落とし込むことです。CRMツールを所有していることと、それを仕事の中で機能させることには違いがあります。
現場担当者の補足をもとに整理
初期設定や以前の運用方針が、そのまま残っていることがあります。今の目的が継続購入の強化なら、非会員購入を許可する設定も含め、現在の顧客管理と整合しているかを見直します。たった一つの確認漏れを発見することが、改善の出発点になります。
上記は担当者の説明を編集した要旨です。顧客の発言を引用したものではありません。企業名・ブランド名・商品名は匿名化しています。
記録された変化と、数字からは言えないこと
2026年5月の月次レポートでは、前年同月と比べて、セッションが減少する一方でCVRと新規会員登録が上向いていました。以下は同レポートに記載された数値です。
2026年5月:1,031件
1.63% → 1.88%
差は+0.25ポイント
132,762 → 110,989
比較:2025年5月と2026年5月。出典:企業A「2026年5月度 月次報告」2〜3ページ(2026年6月4日報告)。相対変化率は原資料の丸め値を使用。新規会員登録の前年件数は、この資料に明記されていないため逆算していません。
同じ資料には、非会員注文が253件から2件になった記録もあります。ただし、253件の集計対象月は明示されていないため、この数値だけは前年同月比・前月比のいずれとも断定しません。非会員注文の件数が減ったことと、全体の注文やLTVが増えたことは、分けて確認します。
売上の報告値も確認しました。ECシステムの売上実数は前年同月比−0.8%、GA4の売上計測値は−5.2%です。異なる計測元を混ぜて「売上が増えた」とは表現せず、集客減少の中で、購入率の改善と会員化が進んだ事例として扱います。この月はメール・LINEの強化や広告の見直しも行われていました。
会員登録の必須化と商品ページ改善は並行しているため、どちらがどの程度貢献したかを、この集計だけで分離することはできません。広告や流入の構成、商品の販売状況も影響し得ます。確認できたのは、複数の改善を進めた時期に、会員化とCVRの変化があったことです。
CVRは購入率を示す短期の指標です。登録した人が再購入したか、利益が残ったかは別の計測が必要です。成功事例を自社に取り入れるときほど、施策名だけをまねず、背景と測定条件を読むことが大切です。
登録必須化を選ぶ前に、顧客の負担と利便性を比べる
会員登録は顧客との接点をつくる方法の一つですが、入力やログインが購入の障壁になる場合もあります。Baymardの購入手続きに関するユーザビリティ調査では、購入前のアカウント作成が負担になる状況が報告されています。購入後に登録を案内する選択肢も検討に値します。[2:Baymardの調査]
会員機能を利用する理由が明確か。入力・ログインの負担を抑えられるか。
ゲスト注文も顧客情報と結び付くか。会員の利便性を適切に案内できるか。
購入を終えた人に、注文履歴や次回購入の便利さを案内できるか。
一般的な選択肢の比較。企業Aで三つの方法を比較実験したという意味ではありません。
会員数より先に、「登録してよかった」を設計する
例えば、前回の注文を確認できる、住所の再入力が少ない、使い方を確認できる、適切なタイミングで補充を案内してもらえる。こうした便利さが、顧客にとっての価値になります。無料の会員登録であっても、手間や情報提供への不安がゼロになるわけではありません。
ゴールド、シルバーといった会員ランクの称号やポイント付与を企画する際も、会員プログラムの特典が顧客に伝わるかを確認します。ロイヤルティーを高めるつもりでアプリの利用や登録項目を増やし過ぎると、かえって体験を損ねる可能性があります。
クーポンなどのインセンティブは、購入を後押しする選択肢です。ただし、割引を続けることで利益が低下していないか、割引がないと利用されなくなっていないかも検証します。自分がそのお客様なら、何を便利だと感じるか。担当者の想像に加えて、問い合わせやアンケートの声を確認しましょう。
満足度の高い購入体験を目指すなら、登録を企業都合の囲い込みとして考える発想から離れ、顧客の負担と向き合う必要があります。「会員になればまた買うはず」と決めつけず、便利だった点と困った点を聞く。長く良好な関係を築いていくには、顧客の声を改善に組み入れることが欠かせません。
非対面でも、接客の質は細部に表れる
商品一覧から詳細ページに進んだとき、サイズ・仕様・配送予定が分かりやすく表示されているか。スマートフォンの小さな文字で、大切な説明が埋もれていないか。現場の接客や営業で何度も聞かれる質問は、コンテンツ改善の手がかりになります。
顧客に寄り添うことは、提案を遠慮することとも違います。すでに持つ製品に合う関連品や、利用時期に合う補充を伝えることは、有用なサービスになり得ます。逆に、興味のない商品の宣伝ばかり届けば負担です。伝える内容と頻度を、顧客の状況から考えます。
書籍『LTVの罠』と、今回の現場事例の関係
「ltv の 罠」で検索すると、垣内勇威氏の書籍『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(日経BP、2023年)が見つかります。本書は顧客接点の問題を捉えるMASTというフレームワークを紹介した一冊です。以下の4つの言葉は同書の目次を参照しています。今回の事例は、同書に掲載された事例ではなく、PRETAKE独自の支援記録です。[3:出版社の書籍紹介]
Meet(出会う)誰に、どこで知ってもらうか
Attract(引き付ける)選ぶための情報が届いているか
Sense(検知する)購入者の状況を把握できるか
Trade(商売する)必要なときに次の提案ができるか
MASTの名称:垣内勇威著『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』。確認例はPRETAKEが作成。
図中の確認例は、4つの視点をECサイトの点検に当てはめたPRETAKEの整理です。書籍の本文を再現した要約ではありません。今回の企業Aでは、購入前の情報と購入後の接点の両方に、見直す余地がありました。
データ分析やAIを導入する前にも、確かめられるボトルネックがあります。トップページで何を扱う会社か分かるか、商品の魅力が伝わらない箇所はどこか、購入後に誰が対応するか。マーケティング部門だけで閉じず、営業・顧客サービス・EC運営の担当が同じ顧客の行動を見ていくことが、実践につながります。
今日から確認する、ECとCRMの設定・運用チェック
まずは、自社ECで初めて購入する人の流れを、実際の画面で確認してください。管理者としてログインした状態では見えない導線があります。新規のお客様と既存会員、それぞれの環境で、商品を選ぶところから購入後の案内までたどります。
非会員・新規会員・既存会員の導線を確認。
注文・顧客ID・配信同意がつながるかを確認。
配信担当、変更日、比較条件、見直し基準を残す。
1.購入と登録の導線を通して確認する
ゲスト購入の可否、必須入力の項目、エラーの表示、パスワードを忘れた際の対応を一覧にします。利用規約やプライバシーポリシーへの導線も確認しましょう。設定を変える場合は、影響する決済や外部連携、既存会員のログインに問題が発生しないかをテストします。
購入完了前の離脱が多いなら、必須化より先に入力負担を解消した方がよい場合があります。登録の有無を問わず、顧客IDと注文がどうひも付くか、重複したプロフィールをどう扱うかまで確認します。
2.商品ページの不安を取り除く
在庫、最短出荷、送料、返品条件、商品の使い方を、購入判断に必要な順序で配置します。「おすすめ」の導線も、単に売りたい商品を並べるのではなく、用途や購入履歴との関連を説明できる形にします。定期購入の案内では、解約や変更の条件を見つけやすくしておきます。
お客様が購入直前に何を確認しているかは、問い合わせの内容やサイト内検索からも調査できます。アクセス解析だけで理由が分からない場合は、少人数のインタビューや操作確認を組み合わせます。
3.取得したデータの使い道と担当を決める
顧客情報の取得、連携、配信、結果の確認を誰が担うかを明確にします。注文メールと販売促進メールの目的を区別し、同意・配信停止の状態を運用に反映します。目的に必要な情報を扱い、必要以上の項目を必須にしないことも大切です。
初回購入から日が浅い人、一定期間購入していない人、特定カテゴリを選んだ人など、まずは運用できる小さなグループから始めます。一人ひとりを理解するための情報を、届ける内容やタイミングに結び付けましょう。
カスタマージャーニーを描くときは、「なぜ買ったか」「なぜ次は買わなかったか」を具体的に整理します。自社メディアの記事を読んだ段階、商品に接触した段階、購入後では必要な情報が違います。カゴ落ちや配信停止は、不安や過剰な案内を示すシグナルかもしれません。これらを見逃して一斉配信だけを増やすと、不満への対処が遅れます。
4.変更日と測定条件を残す
設定変更日、商品ページの更新内容、キャンペーンの実施期間を記録します。比較する期間の日数、流入チャネル、端末、新規・既存の割合をそろえ、季節性も考慮します。前年同月比と前月比を混ぜると、改善の大きさを誤って認識しかねません。
できれば対象を分けて検証し、難しい場合でも複数の施策を同時に変更した事実を残します。数が少ない段階で結論を急がず、想定より購入完了率が下がったときの見直し条件も事前に決めます。
会員数・CVR・LTVを分けて、成果を追う
新規会員が増えたという報告だけで、成功とは判断できません。会員登録後に購入していない人も、初回購入だけで終わる人もいるためです。デジタルマーケティングの施策を経営の成果につなげるには、短期と長期のKPIを段階的に確認します。
会員化・購入登録数/購入完了率/注文数/CVR
再購入2回目購入率/購入間隔/継続率
利益・LTV一定期間の累積利益/獲得・運用コスト
1の改善だけでは、2・3の改善を証明できません。段階ごとに計測します。
継続購入は、同じ起点の顧客グループで比べる
例えば「ある月に初回購入した人」を一つのグループにし、その後90日間の2回目購入率や180日間の累積利益を追います。新しく獲得したばかりの人と、以前からの常連を混ぜて比較しないことがポイントです。商材の購入間隔に合わせて観察期間を設定してください。
計算の考え方の例/企業Aの実績値ではありません
180日間の1人当たり累積粗利益対象顧客グループが180日間に生んだ粗利益の合計
÷ そのグループの初回購入者数
この値は観察期間を限定した指標で、生涯全体のLTVを表すものではありません。返品やキャンセル、販売促進費、CRMの運用費をどこに含めるかもそろえます。平均注文額が1万円でも、値引きや配送負担が大きければ、利益は同じになりません。
将来の利益を見込む予測値と、すでに計測した実績値は分けて表示します。LTVの計算に使った条件を残すことで、数字がよく見えるだけの施策を避け、次の改善を判断しやすくなります。
数字の読み違いで、改善を失敗にしない
業界のランキングで紹介された施策や、新しいテクノロジーが、自社でも有効とは限りません。コンサルティング会社やマーケターと話す際も、施策の概要だけでなく、誰のどの不便を解消するかを確認します。運用にかかる時間が増え、顧客への対応が遅くなるようでは本来の目的から離れます。
数字を正しく評価するには、購入意欲が低い訪問者が減っただけなのか、購入画面が使いやすくなったのかを見分ける必要があります。単価を上げるアップセルも、関連品の案内も、必要な顧客への提案のチャンスとして設計します。短期間で最大の効果を求め過ぎず、少なくとも一度は再購入の時期を迎えるまで観察することが大切です。
集客減少時は、率と件数を一緒に確認する
CVRが高くなっても、訪問者数が減れば注文数が伸びない場合があります。「流入数×購入率×平均注文額」という売り上げの関係を押さえ、率だけを追求しないようにします。既存顧客の比率が増えたことでCVRが上がるケースもあるため、新規の購入体験が改善したかは分けて見ます。
毎月のPDCAでは、設定変更、購入のしやすさ、会員化、再購入、利益を順番につなぎます。担当者の感覚と数値が食い違うときは、その違いを深掘りすることが、課題の発見につながります。
LTVと会員登録について、よくある質問
会員登録を必須にすればLTVは上がりますか?
必ず上がるとは限りません。会員化は顧客との接点を整える手段であり、その後の購入体験やコミュニケーションが必要です。購入時の離脱が増える可能性もあるため、購入完了率と継続購入の両方を見て判断します。
ゲスト購入を残したままCRMを運用できますか?
利用中のEC・CRMの機能と連携方法によります。非会員の注文でも顧客プロフィールが保存されるサービスがあります。注文履歴のひも付けと配信同意の管理ができるかを確認し、登録必須化・任意登録・購入後の登録案内を比較してください。
CVRが改善したら、LTV改善の成果として報告してよいですか?
CVRの改善と、LTVの改善は分けて報告します。前者は購入率、後者は顧客との継続的な取引による価値を扱うためです。今回の事例も、会員化とCVRの変化を示す記録であり、長期LTVの上昇を実測した事例とはしていません。
CRMのツールを入れ替える必要がありますか?
先に現在の設定、データの連携、担当者の運用を確認することをおすすめします。新たな開発やツール導入より、未使用の機能や設定の見直しで対応できる可能性があります。入れ替えは、解消したい課題と必要な要件を整理してから検討します。
PRETAKE / EC支援
その設定は、今の事業の目的に合っていますか。
LTVを上げるために、何から手を付けるべきか分からない。会員は増えているのに、リピート施策が進まない。まずは購入導線とCRMのつながりを確認し、止まっている箇所を整理しましょう。
PRETAKEのEC伴走支援では、現場の設定・商品ページ・顧客接点・計測を一緒に見直します。相談時は、自社ECのURL、現在の課題、利用しているEC・CRMサービスをお知らせください。顧客の個人情報をそのまま送る必要はありません。
ECの改善について相談する執筆・根拠資料
執筆・編集:株式会社プレテイク(PRETAKE)
作成日:2026年10月20日。自社の支援記録と現場担当者の説明をもとに、施策の内容・観測結果・実務への提案を区別して編集しています。
- PRETAKE「成功事例ライブラリ」2行目:会員登録必須化+商品ページ改善によるCVR底上げ。社内資料、2026年10月20日確認。企業名は匿名化。
- 企業A「2026年4月度 月次報告」の決定事項、および「2026年5月度 月次報告」2〜4・8ページ(2026年6月4日報告):2025年5月との比較、会員化の記録。社内資料のため原本・企業名は非公開。
- [1]Shopifyヘルプセンター「お客様の管理」:プロフィール作成とマーケティング受信同意の扱い。
- [2]Baymard Institute「Delayed Account Creation」:購入手続きとアカウント作成のユーザビリティ。
- [3]日経BOOKプラス『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』:著者・発行元・MASTの名称と目次。2023年発行。
外部資料確認日:2026年10月20日。一般的な解説・図解中の確認例は、企業Aで実施した内容や測定結果と区別しています。成果は商品・集客・購入導線・運用条件により異なります。

